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延命治療


この1ヶ月間、以前にも増して看護師として働く事に精神的ストレスを感じる事が多くなった。
というのも、私は8月1日から別の科に異動となり、もうすぐ1ヶ月が経とうとしている。
今回の異動先は内科(ICU的重症患者部屋含む)。
とはいえ、患者の大半は70歳以上の高齢者。
正直、人間70も過ぎれば、身体面においてガタが生じるのは当然の事。
各々、カルテの既往歴にはいくつもの病名が列挙されているが、現在入院中の43名の患者に「癌」患者はいない。
今や2人に1人が癌に罹ると言われているが、私が日々接している患者に癌患者がいないのは、恐らく「癌に罹った者は”高齢者”になる前に死ぬ」という事の現れか。

入院中の患者の大半は「アルツハイマー」や「心疾患」「高血圧」といった診断を付けられ、本人の意思とは無関係に、半ば「延命」的治療が断続的に行なわれている。
全身のあらゆる関節に拘縮をきたし、当然寝たきりであり、IVH(高カロリー輸液)によってかろうじて心臓の拍動が続いている・・・そんな患者が半数近くを占める病棟での勤務。
今の私にとっては、そんな患者の看護自体、ストレスでしかない。

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今朝、1人の女性患者が死亡した。
1年近い入院期間中、何度も生死をさまよいつつも、その都度治療・処置を施され、今朝まで彼女は「生かされて」きた。
既に身近な親族はなく、亡くなる前日、姪が来院。
「延命は何も望んでいません。死亡した時、電話下さい。家は遠いので、すぐには来れませんが・・・」実にあっさりとしたものだった。
享年92歳。
彼女はやっと「延命」から解放された。
病院で死亡する限り、何らかの病名を付けられる事になるのだが、私にはただの「老衰」でしかない。

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ICUに入院中の男性患者。
彼は身近な親族がいない為、生活保護を受けている。
一応カルテ上、保護者欄には甥の名前が載っている。
甥には、経済的支援をしない代わりに、患者の「延命」を拒否する権限もない。
よって、患者は必然的に「延命」的処置を受け続けている。
日々高価な薬剤を投与され、彼は「生かされて」いる。
お国の税金で・・・。
私は別に「生活保護者」を避難するつもりはない。
が、彼が今受けている治療全ては、私にとって「無意味」に値する。

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今回の日記は全て私の本心であり、それ故避難を浴びる事は覚悟の上である。
まして医療従事者として「人の命」に触れる事柄を、自身の感情むき出しで語る事など本来あってはならない。
しかし、私は敢えて書こうと思う。
これは綺麗事ではない。
今の私にとっては、もはやナイチンゲール精神だけでは、ストレスが大きすぎる。


父は今までがむしゃらに働き、もちろん日本国民としての「義務」も果たしてきた。
そんな父が癌に罹り、現在治療を継続するにあたり、多くの傷害にぶち当たっている。
その1つに「厚生労働省」の抗ガン剤に関する薬剤承認の件がある。
父は既に何度も書いているように、骨髄抑制が著明な為、思うように抗ガン剤治療が受けられずにいる。
白血球を上げる薬剤(GCSF製剤)は、外来治療では未だ認可が出ておらず、先日の平岩医師の話によれば、仮に水面下でこれらの薬剤を使用した場合、1回5万円もかかるという。
「厚生労働省」の言い分は「白血球を無理に上げてまで抗ガン剤治療をする必要はない。それはもはや無意味な事」という事か。

先に述べた生活保護者の治療をはじめ、もはや本人との意思の疎通が困難な状態にあり、明らかに「完治」を望めない病状であっても、積極的に治療が行なわれているという現実を見るにつけ、無性に腹が立つ。
父も同じく「完治」こそ望めないが、本人の意思の元「生きる」為に治療を望んでいるのだ。
なのにそんな父の治療は適応されず、日々目の前にいる患者の命を「延命」させる為にケアを施している自分・・・。
何とも因果な職業を選んでしまったものである。


父の事がなければ、私自身、きっとこんな事に矛盾を感じる事もなく、日々看護師としてナイチンゲール精神で患者と向き合っていた・・・かもしれない。
が、現実は違う。
2年半前、厳しい余命宣告を受け、かろうじてその宣告は時効となったが、それでもなお、私達家族はいつ訪れるかも分からない恐怖に日々怯えている。
もしかすると、目の前のただ「生かされている」患者達の方が、父よりも長生きするかもしれない。
人の命に重いも軽いもない。
人の命は地球より重い。
とはいえ、そんな綺麗事ではなく、私にとっては間違いなく父の命の方が彼らより重い。

仕事として割り切ればいい・・・。
それは分かっている。
が、それが出来ずにいるから辛い。


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